TEAと質的探究学会へのお誘いAbout Us
複線径路等至性アプローチ(TEA)は、時間経過とともにある人生径路や人間発達の多様性・複線性を大切にする人間観を有した質的研究法です。そうした様相を文化的・社会的文脈とともにとらえるにあたって、複線的・複眼的なものの見方が重要であり、TEAでは、現象や経験を丁寧にとらえ可視化するための諸概念を考案しながら、その精緻化がなされてきました。実のところ、TEAに特徴的な諸概念は、データを分析するうえでの必要性に応じて産みだされてきた面があります。
他方で、データを分析するうえでの単線思考を避けるべく、こうしてああすればよい、というような画一的な分析手続きを論じることは、控えられてきました。かかわって、TEAを用いていかにデータ分析をするかということは、TEAの活用と隣あわせの重要課題であり続けています。そして、その検討のためのプラットフォームが、TEA研究会やTEAサロンなどのかたちとしてこれまで設定され、協働的な学びの場や機会が構成されてきました。このたび、そうした厚い蓄積を基盤に、より学術的な進展をはかるべく、TEAと質的探究学会を創設する運びとなりました。
2004年に産声をあげて育ってきた複線径路等至性モデリング(TEM)を中心に、等至点の概念と関連の深い、対象選定の理論である歴史的構造化ご招待(HSI)、ならびに、分岐点の概念と関連の深い、自己の変容をとらえる理論である発生の三層モデル(TLMG)によって構成されるTEA。これまでの発展の経過で、プロセスの把握を志向する研究において、多分野にわたりTEAが活用されてきました。TEAは文化心理学に依拠するものですが、応用的な心理学ではもとより、心理学を越えて、保育学、社会学、社会福祉学、応用言語学、教育学、経営学などの、幅広い分野の研究者や実践家によって用いられています。こうした適用の広がりは、同時に、TEAの発展を下支えしてくれるものでもありました。もっとも個々人がTEAを使ってみようと思うそのきっかけは、ほんの些細なことかもしれません。そうしたひとつひとつの研究活動の営みが、TEAによって有用な知を産みだすと同時に、現象や経験のプロセスの把握に有用なTEAの進展につながっていることの機微を、想わずにはいられません。
TEAにほんの少しでも関心のあるみなさま、これまでTEAに関心をもって研究実践に取り組み挑まれているみなさま、そして、今、TEAというものを目にされたみなさま。これからのさらなるTEAの進展の道筋をともにつくっていってくださるみなさまの、ご関与とお力添えを、こころよりお待ちしています。
2022年3月吉日
TEAと質的探究学会設立世話人
(安田裕子・サトウタツヤ・中坪史典・荒川歩)